会長挨拶
多様性の時代に応える大環協の役割と貢献
大学等環境安全協議会 会長
大島 義人
大学等環境安全協議会の第12期会長を拝命致しました。前期からの続投を仰せつかることになり、引き続き皆様方のご協力のもと,本協議会の一層の発展に尽力して参る所存です。よろしくお願い致します。
大学等環境安全協議会は、1979年に前身である国立大学排液処理連絡会として発足して以来40余年にわたり、研究教育機関における環境安全を幅広く扱う組織に発展してまいりました。特に21世紀に入り、国立大学の法人化、様々な法律や規則の改正、研究教育現場の国際化や学際化など、大学のあり方自体にも関わる様々な変化があった一方で、大地震や記録的豪雨といった未曾有の自然災害、最近では新型コロナウイルスの蔓延などの危機にも直面してきました。これらはすべて大学の環境安全に直接関わる大きな出来事ですが、本協議会としても、経験したことのないこれらの出来事に対して、迅速かつ適切に対応することを求められ続けてきたように思います。翻って、いかなる変化においても、現場が抱える課題の解決には現場の力が不可欠であることを体現してきた歴史であると考えれば、本協議会が果たすべき役割に鑑みて、会長としての重責を改めて痛感しているところであります。
さて、2023年4月に労働安全衛生法の改正があり、化学物質の管理方法に関する法律上の方針が変更されることになりました。この最も重要なポイントは、特定の化学物質の個別具体的な規制であった従来の方針から、管理基準の達成のための自律的な管理を基軸とする規制に移行されたことにあります。物質の個別規制から使用者の自律性重視に大きく舵が切られたことは、研究教育機関である大学等においても例外ではなく、化学物質使用者としての責任が重くなる中で、その法対応に頭を悩ませるところが少なくないと思います。その一方で、見方を変えれば、化学物質管理に関する法体系の方針転換の中で、教育機関である大学がどのような役割を担い、どのように責務を果たしていくのか、大学等における自律的なリスク管理とはいかなるものか、といった命題について、改めて考える絶好の機会であるというポジティブな捉え方もできるのではないかと思います。このような背景を受け、本協議会では2022年度より、「大学等教育研究機関における化学物質取扱いリスク」をテーマとするトップダウンプロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトは、大学等が自らの意志として現場の多様性に鑑みた化学物質の合理的な管理方法を提案し、それを実践することを目指すものです。本協議会には、実験研究現場に直接携わる会員が数多く存在し、その専門性も多様であることから、このプロジェクト活動を通じて、現場の実態をふまえたより実効的な提案ができるものと期待しています。
また、本協議会では、新しい環境安全教育手法の開発についても活発な議論が進められています。研究分野の学際化、国際化に伴う留学生の増加、コミュニケーションツールの多様化に伴い、大学における環境安全教育のあり方においても少なからず変化が求められています。科学技術の基盤を支える研究の自由や発展と環境配慮・安全確保・規則遵守とのバランスは、研究教育機関である大学等が抱える重要な課題であり、研究のアクティビティ向上と環境安全配慮とを車の両輪として活躍できる人材を育成するために、新しい環境安全教育手法の提案と発信を強力に推し進めていきたいと考えております。
一方で、本協議会には、環境安全分野におけるAcademic Activityの発信源としての役割も期待されています。査読付き学術誌「環境と安全」、英文誌「Journal of Environment and Safety」には、環境安全に関する総説、原著、報告論文などが掲載されており、特に英文誌は、アジア地域の研究・教育機関の環境安全分野に関する国際会議ACSEL (Asian Conference on Safety and Education in Laboratory)のプロシーディングス掲載誌の役割も担っております。これらの論文が広く閲覧されるよう、和文誌・英文誌とも電子版をJ-STAGEにて公開しています。大学等の研究教育現場を研究対象とした調査、解析、技術提案は、多様な実験研究現場における環境安全管理の科学的根拠となるものです。皆様方がそれぞれの実験研究現場で培ってきた知恵や工夫、経験を、学術成果として共有、活用し、新たな課題解決に向けた情報として広く発信することが、本協議会に課せられた重要な使命の一つであると考えております。
めまぐるしく変化する社会情勢の中で、深化と多様化が加速する研究教育現場において、環境安全をめぐる課題も複雑化かつ多様化しています。このような時代だからこそ、共通の課題を抱える現場が一致団結して問題解決にあたることが不可欠であると思います。今後も、賛助会員としての企業のご支援を含め、人と情報のつながりを基軸とする本協議会の活性化を通じて、研究教育現場の環境安全の向上に寄与して参りたいと考えております。皆様の温かいご支援とご協力を賜ることができれば大変幸甚に存じます。よろしくお願い申し上げます。
(東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授)